計画地は,市内中心部近くに位置する文教地区にある.
周辺には様々な施設で混沌としており,少なくても閑静な住宅街とは少し異なる.
目前には学校のグラウンドが広がり,聞こえるのは高校球児の声.
クライアントの母校で自身もその一人として汗を流していた所縁がある.
夫婦と天使のような笑顔の少女がこれから一緒に過ごすための住処の計画として,
要望/諸条件を紐解くためのアナリーゼを丁寧に行い,
旋律の骨格を紡ぐ.
もちろん,主旋律は「天使」の笑顔のために.
オブリガートとして素材へのこだわりもある夫婦が選んだものは
珪藻土や天然木石材.そそぐ採光は素材に映りより優しく心地よいものとなった.
庭を囲むように配置された居住空間は内外の境界を曖昧な構成とした.
かつて厳寒なこの地に春の訪れを告げる「桜の標本木」が存在したことをヒントに自然に触れ,
季節のグラデーションを感じるということを目論む.
四季が明確で厳しい北海道だが,あえて外部を取込むことでより深い情景を感じさせる.
一見すると日々の暮らしは単調であるように見えるのだが,
何かをきっかけに様々な要素を奏でる旋律が幾重にも重なりあい,
奥行きのある,豊かな色彩のハーモニーが生まれるはずである.
その調べはまるでラヴェルの”ボレロ”のように.